『Tim Brownと考えるデザイン思考前史と後史』の解説 (3/3)、ほか
Topics
7月5日 『起こりうる未来を”生きる”ためのデザイン —Designing Futures through Speculation』
7月16日 『地球視点で未来をデザインする「日本らしい」共創と変革 —経営とアカデミアによる実務と最先端理論の融合—』
10月3日 修了生イベント Re-Assemblage @ 川崎
Update
山内です。引続き、『Tim Brownと考えるデザイン思考前史と後史』の解説を続けたいと思います。詳しくはポッドキャストもご覧ください(Apple / Spotify)。
これまでのニュースレター(前々号、前号)では、デザイン思考が生まれた背景をざっと見た後、経営実践におけるデザインの課題を明らかにしました。Tim Brownさんたちが2000年代半ばにデザイン思考をデザインしたとすると、20年経って次にどのようなデザインをデザインするべきでしょうか?
イベントの最後に、Timさんがおっしゃったことに衝撃を受けました。日本でENND Partnersの設立に参加をした理由は、「日本には手に持つことのできる(tangible)質があるから」だと。物理的なモノであり素材です。日本には「次のデザイン」を考えるための歴史の流れがあるということです。まさか、ここで「日本」が、そして手に持つことができる「モノ」の話になるとは、衝撃でした。
私は思わず突っ込みました。1980年代のインタラクションデザインで、これからはモノのデザインだけではないと言い、2000年代のデザイン思考で、もはやデザインは美大出身のエリートデザイナーがモノをつくるだけではなく、絵が描けなくても誰でもデザインできるんだと主張してきたTimさんから、これからは「モノ」だと。しかも、プロがこだわって丁寧に作るモノです。
実はこれは驚くことではありません。岩渕さんもおっしゃっていましたが、現在は世界的に日本の文化が人気があります。そして、日本の伝統工芸の職人がこだわって作り上げる質感などは、世界的に見ても珍しいものとなっています。私もヨーロッパや北米の研究者が日本の伝統工芸を研究したいというのでいくつかのプロジェクトをやっています。加えて、京都で工芸・クラフトに関する国際ワークショップを運営してきて、今年で4年目です。
私はよく2004年に社会が180度変わったと説明してきました。モノに価値がないという時代が始まったということです。そのときに出現したのがデザイン思考でした。社会が前に進まなくなって止まった感覚、そして社会の向こう側が感じられなくなったのが、2004年ごろです。そこから社会を支える構造が弱くなり、全てがフラットで、薄く、軽くなっていきました。モノ自体は重要ではなくなりました。
この傾向は2020年代まで強かったのですが、2024年ごろからまた社会が劇的に変化しています。このあたりのいきさつはこれまで何度か取り上げていますので、詳しくは説明しませんが、基本的には「現実」を突き付けられたという感覚です。それまでは、現実から浮遊した表象空間に閉じることができました。例えば、スマホに閉じて満足することができました。それがいよいよ閉じることができず、現実にさらされる感覚です。コロナで社会が停止したり、戦争が起こったり、AIで激変するなど、閉じられた表象空間で安心してられないのです。
現実を突き付けられるということは、現実のモノに、特に存在感のあるモノに価値が出るということです。特に、モノとして厚みがあるもの、影があったり、生々しかったり、精神性のあるモノが注目を集めるようになってきました。例えば、宗教、伝統、儀礼などの超越的な価値です。フラットで厚みがなく薄く、倍速で聞けるぐらいわかりやすく、少し距離を取りシラけた態度がよかった、従来の文化からは考えられない価値です。
佐藤可士和さんと一緒に「象徴」のデザインを探求していますが、この象徴は現実に時空間の中で指差せるものではなく、超越的な価値に関わります。この点は今年度も追求していきます。1月24日の可士和さんとの対談の録画はこちらです。
イベント当日、モノが重要になったのはAIが原因かという質問がありましたが、その前から起こっていることです。イデオロギーの星座を作ってきた中で、伝統、宗教、精神性への着目は、2016年ごろから徐々に現われ、そして2010年代終りごろにははっきり見えてきたと思います。現在のAIは2017年あたりの発明ですが、実際に社会に広まって私たちの前に出現したのは2022年あたりからですので、AIの前から始まっている傾向です。技術に決定されているというよりも、もっと大きな歴史の変化があるのです。AIはそれを加速させたと言えます。
そうすると、まさに2004年ごろからTimさんがデザイン思考をデザインしたように、この2024年以降のAI時代のデザインを同じようにデザインしなければならないということです。そして、そのときに「化学反応」する可能性のある歴史の流れが、日本に強く残っている超越的な価値を持ったモノであり、質という文化だという可能性です。デザイン思考をデザインしたTimさんだから見えている、社会の変化だと思います。
そして、これがまさに経営層によるデザインと結びつく可能性があるのかもしれません。ファイナンスやM&Aなど、どちらかというと現実から距離を取って表象空間の中で上から組織や事業をいじるのではなく、先の見えない現実にどう向き合うのかは、経営実践においても重要となっています。経営者も直接的に現実に向き合わなければならないのです(現場に行くことが重要だというような話ではありません)。ここはまだ完全にはクリアではありませんが、日本にもしこの大きな歴史の流れがあるのであれば、経営層がデザインを実践していくときに支えとなるはずです。
私自身も新しいデザインをデザインしようと取り組む中で、人文学が重要だと考えたのですが、この社会の変化を捉えようとしてきたのです。2021年に京都クリエイティブ・アッサンブラージュを立ち上げたときに、人文学を前面に押し出しました。11年前に本を書いたときは、難しくて倍速では理解できない人文学は全く見向きもされませんでした。大学で人文学を教えるぐらいなら簿記を教えろと言われました。今は多くの経営者が人文学に注目しています。
人文学自体が単純ではなく、少し重みもあり、割り切れないドロドロしたところを持っていますが、同時に、人文学は現実を解像度高く読み解くための方法も持っています。ややこしい現実を読み解くためには、人文学の視点は決定的だと思います。正解を教えてくれるからではなく、正解がないことに向き合うという人文学の基本的な姿勢が、今の経営者にとって重要な視点となります。
私は、日本に残っているモノの超越的な質という歴史の流れと、人文学という歴史の流れが化学反応するのではないかと考えています。しかしながら、まだ完全には見えていません。この「次のデザイン」を探求していくパートナーを募集中です。
参考:
『Tim Brownと考えるデザイン思考前史と後史』の解説 1/3 (Newsletter 前々号)
『Tim Brownと考えるデザイン思考前史と後史』の解説 2/3 (Newsletter 前号).
1. 起こりうる未来を”生きる”ためのデザイン —Designing Futures through Speculation
「未来シナリオ創造プログラム」に先立ち、プレイベントを開催します。
『認知症世界の歩き方』で知られる 筧裕介氏と、京都工芸繊維大学の 水野大二郎教授による対談を実施。コ・デザインやスペキュラティブデザインなどを手がかりに、今・ここにない世界観や自分とは異なる価値観、他者の視点を生きるアプローチを探ります。単一の価値観や未来像を前提とせず、多様な未来を経験することで広がるデザインと価値創造の可能性について考えます。
後半には、KCA修了生によるライトニングトークに加え、「未来シナリオ創造プログラム」のご案内、懇親会も予定しています。プログラムの受講を検討されている方はもちろん、テーマに関心のある方にとって、講師や修了生の考え方や実践に触れられる貴重な機会です。ぜひお気軽にお申込みください。
日時:2026/7/5(日)16:00〜19:30(懇親会 18:30〜)
会場:FabCafe Tokyo (〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂1丁目22−7 道玄坂ピア 1F)
形式:現地定員30名(オンライン同時配信なし/アーカイブ配信あり)
申込:https://peatix.com/event/5048024
2. 地球視点で未来をデザインする「日本らしい」共創と変革 -経営とアカデミアによる実務と最先端理論の融合-
7/16(木)、大阪のQUINTBRIDGEにて、 書籍『クリティカル・ワードデザイン理論 問題解決と未来構想の先へ』の発行を機に、京都工芸繊維大学 未来デザイン・工学機構 水野大二郎教授、ヤンマーブランドアセットデザイン株式会社代表取締役の長屋明浩氏、株式会社エンビジョンの執行役員 COO兼 CBO 藤巻功氏による対談を行います。
経営とアカデミアそれぞれの専門的視点から、「広義のデザイン」や「日本らしいブランドのつくり方」をテーマにお話しする予定です。対談終了後、簡単な交流会も開催予定です。皆さんのご来場をお待ちしています。
会場: QUINTBRIDGE(大阪・京橋)
イベント詳細:https://www.quintbridge.jp/event/detail/202605271644.html?date=2026/07/16
参加お申込みはこちら:https://peatix.com/event/5017114
3. 修了生イベント Re-Assemblage 10月3日 @ 川崎
京都クリエイティブ・アッサンブラージュの修了生限定ですが、恒例のカンファレンス “Re-Assemblage” をやります。
日時:2026年10月3日(土)
会場:Uvance Innovation Studio(川崎駅から徒歩数分)
https://fj-uis.com/ja/access
本イベントは、2022年の1期から今年の5期のKCA修了生が期を跨いで集まる交流の場です。
インプットセッションやワークショップなども検討しつつ、修了生同士の懇親会(飲み会)も予定しています。近況報告や新たなネットワーキングの場として、ぜひご活用ください。
プログラムの詳細は現在準備中です。「こんな企画をやってみたい」「運営に関わりたい」というアイデアや立候補も大歓迎ですので、お気軽にご連絡ください。
参加申し込みフォームは、準備でき次第あらためてご案内いたします。
まずはぜひ、10月3日(土)のご予定を確保いただけますと幸いです。
ポッドキャスト「敗者のつぶやき」
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